稲垣理一郎とかいう天才
「Dr.STONE」、何故か21巻だけアマゾンで品切れていて、ずっと最新巻が読めていなかったのだが、この間、それが解消されたので一気に読んだが、面白かった。通常時も、なんだかんだ言って面白いのだが、大きな区切りがつく巻は、様々な伏線が一気に回収されていって、めちゃくちゃ面白い。22巻は最高だった。「トリリオンゲーム」も安定して面白い。その技術に少し迫っていきたいと思う。
まず、登場人物に関しては、一芸に秀でたキャラクターとすることが多いと思う。その分野のことを任せた場合には、必ず解決できる、というような。これは特徴づけも楽だし、活躍の場を分散させることができるし、他の専門分野のキャラクターを登場させることで、一気に別の解法ができるようになったり、とメリットが多い。色々な作者によって使用されている手法だ。
次に、根幹的な問題解決の手法。これが彼の最大の特徴だと考えている。まず、現実でも起こった(起こせる)出来事を基盤にした、突拍子もないような解法を使う。そんなこと、無理、突拍子もなさすぎる、という指摘に対しては、似たようなことが現実に起きている、という返答ができるためだ。もちろん、これを適切に使用するためには、そのための条件を作中で違和感なく整えたり、そもそもの事例のストックを大量に用意するための下調べが不可欠なのだが、それをすんなりとやってのけている。そして、最終的な解決は、誰もができるが、なかなかできないこと、つまり、異常な執念や努力、というところに帰結させる。そういったものは、多くの人々が憧れを持ちながら、出来る(と思い込んでいる)にも関わらず、やらない(本当はできないのが)ことであり、それを作中のキャラクターがやっていることに共感しつつも、憧れるのだ。それによって、心を動かしている。
また、単純に伏線を引くのが上手い。よく言われることだが、伏線というのは、本当に回収される時までは、別の用途で使用された、と思わせるべきである(狭義の伏線はこれだけを指す、という人もいる)。下手な人の伏線は、意味もなく唐突に謎の設定や挙動があり、これは伏線だ、と気付かれてしまう。けれど、何かに使用された場合には、既に役目を終えたと判断され、気にも留めなくなる。それが重要な場面で生きてくると、描写の積み重ねに気付き、説得力が増すし、面白く感じるのだ。
とはいえ、これらは物語創りの基礎の基礎である。しかし、外連味と理論、シリアスとコメディのバランスなど、実際にはセンスで乗り切らなくてはいけない部分は山のようにあり、それをすらりとやってのける作者は少ない。だからこそ、そういった人々に対し、皆は賛辞を惜しまないのである。