許容される複雑さ

 なんか、また、現代人の読解力が~みたいな記事が出ていた。いい加減、そういうの止めないか、という気持ちだ。

 もちろん、環境の差はあるし、時間の価値の変化というものはある。けれど、人間の脳がそんな急速に読解力の低下を招く様な事態にはなっていない、というのは容易に想像できる。どんな偏った進化だよ。今の時代の人は~というのは、もう何十年も、下手をすれば何百年、何千年も繰り返し言われてきたことで、そして、それは間違いであるという証明も何度も行われてきたことだ。それを、いくつかの都合の良い作品だけを取り上げて、ほら、この通りだろう、というのは危険だと言うのがわからないのか。更生が難しい作品とか、本来ならば、物語全体で語ってきたような複雑さを物語の一部として簡単に消化している作品とかも、いくらでもあるだろう。結局、面白ければ、観客はしっかりと考えてくれる。そうできないのは、創作者の実力不足であって、もっとわかりやすく、もっと複雑で、もっと興味を持ってもらうようにしなければいけない。

 そもそも、受け手のために、受け手を喜ばせるために、そういうパズルが創作なのに、受け手を馬鹿にして、面白い作品ができるわけないじゃないか。なんで、それを学ぶことができないのだろう。そういう視野狭窄は、結局、自分の首を絞めるだけだ。いい加減、学ぼうよ……

 きっと、自分が好きな複雑な作品が、現代人に受け入れられなかった、とか感じたのだろう。でも、自分が面白いと思っていた過去の名作が、現代人につまらない、と言われてしまうのは、単純につまらないんだよ。残念だけれど、間違っているのは大衆ではなく、自分自身だ。思い出や執着補正がかかっているだけだ。本当に、悲しい気持ちになるけれどね。でも、現代の傑作はすごいよ、やっぱり。