恐怖

 久しぶりに急に死ぬのが怖くなってしまった。いや、あり得ないだろ、この主観が消えてしまうなんて。他者の死に対して、あまり思うところがないのは、圧倒的にこれの恐怖のためだ。自分の死が怖すぎる。それに対比するのであれば、他者の死はあまりにも軽く、意味がない。自身の死と釣り合うようなものではない。僕以外の全ての生物が死滅したとしても、僕自身が生きていくのであれば、その差異は些細なものでしかない。僕が死ぬのであれば、その他の全てが微塵も変化しなくとも、この主観は消滅してしまう。圧倒的な閾値。全ての基盤だ。

 人々が、あまりにも自然に、死後の世界や死後の何かを信じる理由が僕には良くわかる。そうでなければ、この社会は成立しないからだ。もし、全ての人間がすべからく死んでしまい、その先に何もないのであれば、この社会で行われているほとんどのことは否定されてしまう。だから、そうであるはずがない、と考えるのだろう。実に理解しやすい。

 しかし、実際として、それは異なる。理論が証明している。歴史が証明している。死を克服することはできない。全ての生物は死を避けることはできない。ゆえに、この社会は成立していない。当たり前の帰結だ。その当たり前をあまりにも多くの人間が認識していなくて、僕はやっていられなくなる。

 お前は死ぬんだぞ。わかっているのか? その事実の前には、あらゆることが些事と化してしまう。無限に矮小化する。