正しさ

 男は自分の住む場所を疑問に思った。そこに住む皆がここは素晴らしい場所だというが、その根拠は曖昧なもので、明確でないように思えた。

 彼は、旅に出ることにした。様々な経験を得るために地方を旅した。大きな図書館に通い、本を読み漁ることもあった。都会で多くの人の意見を聞くこともあった。独り、思考にふけることもあった。本当に、あの場所が身を落ち着かせるのに最適な場所なのだろうか、と考えた。人生は一度しかない。何もわからぬままに、その場所に住まい、ここではないどこかに思いをはせる人生は哀れに思えたのだ。

 そして、彼は最終的に最も素晴らしいと結論付けた場所にやってきた。

 おかえり、と彼は迎えられた。ここは素晴らしい場所だ。彼がそういうと、皆が賛同した。そうではない。彼は思った。ここがどのような理屈で最も素晴らしいと思えるのか、それを皆は知らないはずだ。しかし、口を噤むことにした。結局、結論は同じなのだ。そこに何かの論拠があったとしても、何かが変わることはない。

 彼は途方に暮れながらも、そこで暮らした。論拠を固めるための旅が楽しくなかったのか、と問われれば、そうではないと答えるしかない。楽しかった。ただ、ひどく疲れていた。本当にそれだけの価値があったのか。周りで楽しそうに、元気に暮らしている人々を見ると、自信がなくなっていくのだ。これで良かったと言い聞かせるために、自分は論理を曲げてしまったのではないか? 男は次第にそう考えるようになった。

 しばらくして、また男は旅立った。それを見送った皆はこう噂した。

 今度はいつ帰ってくるのだろうね。