「アグリコラ」の感想

 ウヴェ・ローゼンベルクの「カヴェルナ」をやり、非常に面白く感じた。一方、彼の精神的前作である「アグリコラ」を僕は好んでいない。この差を明確にするため、まずは「アグリコラ」に関する感想をまとめようと思った。

 

 「アグリコラ」はワーカープレイスメントの初期における傑作と言われている。長年BGGでトップを取っていた「プエルトリコ」を倒したほどだ。プレイヤーたちは中世の農家となって、自分の農場を発展させていく。このようにテーマ性がミニマムであることはボードゲームにおいて珍しいが、メカニズムもそれに合わせて、かなりかつかつになっている。

 そのかつかつさは、非常にシビアな食料の支払いから来ている。ワーカープレイスメントというメカニズムでは、各アクションにワーカーを置くことで、処理が行われる。そのため、ワーカーの数はそのまま強さになることが多く、なるべく多くしていきたい。しかし、今作では、ワーカーの数の倍だけの食料支払いを求められる。後に出た作品でも、食料の支払い、つまりワーカーの維持コストを必要とするゲームは多いのだが、ここまで厳しいことは珍しい。食料を得るためには、まず、いくつかの資源(豚や羊といった家畜や、麦・野菜といった農作物)を食料に変換する必要があり、そのためには施設がいる。この施設を建てるには、別の資源(木や石)が必要になる。つまり、ある程度の食料を得るためには、石や木を取る→施設を建てる→家畜や農作物を得るといったアクションが必須なのだ。これだけのアクションをして、得られるのはワーカーの維持コストだけ。ワーカーを増やした分で、それを補うのでは自転車操業なので、それ以上の効率を上げる必要がある。これが難しいのだ。もちろん、これはワーカーを増やすだけが正解でないようにバランシングされているわけだが、それにしても厳しい。

 もう一つの特徴は、減点式の得点システムである。このゲームにはあらゆる要素がある。畑や麦、野菜を中心とした農作物や、農場や羊、牛を中心とした酪農に大別されるのだが、皆はその全てを少なくとも一つは持つことを求められる。各種類における得点表があり、0の場合はマイナスになってしまうのだ。1つ以上持っていれば、1点にはなるわけで、2点差を埋めるために、皆は様々なアクションをすることを求められる。しかし、他のプレイヤーとてそれは同じだ。結果として、アクションの取り合いが発生する。

 また、前の点の裏表でもあるのだが、得点表にはもう一つの特徴がある。それは、ある種類の資源における得点には上限があるのだ。例えば、羊は7頭(確か……)以上飼っていれば4点なのだが、14頭飼っていたとしても4点となる。つまり、何かに特化して、減点を埋めるという戦術を取ることはできない。ボードゲームの得点は、特化を推奨する型と、バランスを推奨する型があるが、このゲームは強く後者に寄っている。

 各アクションも、一つずつしかできないものが多い。例えば、畑を作る→小麦を得る→畑に植えるといったような流れで、3アクション必要になるというわけだ。一手でまとめて何かをやるようなことはできないといっていい。

 これらの要素が重なり合い、プレイ感が非常にシビアだ。

 これ以外にも、特殊設備や能力のドラフトがあり、初期のセットアップが異なるため、多少は上記よりもマシなプレイ感となるのだが。このドラフトこそ、「アグリコラ」の神髄という人もいるので、これによる戦術の豊かに触れないのはフェアではないのだが、僕ぐらいのプレイ回数(一桁台)だと、それを感じられていないので、記載することができない。ただ、そのカードは膨大な数があり、1ゲームで使用されるのは微々たる量なので、圧倒的なリプレイバリューがある。

 

 以上を簡単にまとめると、以下のようになる。

 アグリコラは、中世の農家をテーマにしたゲームで、ワーカープレイスメント初期の傑作である。ワーカー数に比例する食料の支払いをやりくりしながら、自身の農場を満遍なく成長させていき、極力減点を減らすようなプレイを推奨する。また、ゲーム開始時のドラフトにより、特殊能力が決まるため、セットアップのバリエーションが豊富で、リプレイ性が非常に高い。

 

 これらから導き出されるのは、非常にスパイク向きのゲームということだ。スパイクというのは、MTGのデザイナーであるマーク・ローズウォーターが提唱した概念で、競技向けのゲームプレイヤー、つまり、勝利や高得点を競うのが好きなプレイヤーのことである。そういう、同じゲームを何度もプレイして、より高い点数を、勝利を求める、という気質の人たちにはとても向いていると思う。しかし、僕はその気質が強くないので、正直、つらい過ぎるという思いが強い。そのつらさを乗り越えた面白さよりも、単純なつらさが印象に残って終わってしまうゲームだったのだ。また、かなりシビアなゲームなので、初心者が失敗してしまうとリカバリーが利かず、ボロボロな盤面で終わってしまうというのも悪い点だ。自分の牧場が貧相なままで終わってしまい、隣のプレイヤーは動物や農作物で満ちている。そんなことが容易に起こり得るゲームなのだ。逆に言えば、習熟の楽しみは強いと言える。