「バーズ・オブ・プレイ」の感想

 まあ、要素要素はよく出来ているんですよね。部分部分で問題点はあるのだけれど、全体的な構成には問題ないと思うし。でも、どうにも乗り切れなかった。理由は以下のようなものがあると思う。

 

 一つは、ハーレクインやブラックマスクの動機が弱いこと。両者とも、現状でも大きな問題を抱えているわけではないのだ。彼女は追われているとは言え、割と何とかなっているわけだし、ブラックマスクも裏世界を牛耳ることはできていなくとも、力は十分にあることが示されている。お金がある分にはいいだろうが、それを手に入れたいという欲求が少ない。むしろ、そのまわりの人たちの方が重い動機を持っているぐらいだ。

 一つは、結局、男性と女性の戦争というのが明らか過ぎることだ。あまりにも明示的だから、逆にジェンダーを強く感じてしまう構成になっている。そうではなくて、男性社会的な真面目さを必要とされるブラックマスクの組織と、女性的な許容があり、多様性を認めるポップなハーレクインという対比でも良かったかもしれない。ハーレクイン側の刑事なんかは男性でも良かったのではないだろうか。あるいは、暗殺者だろうか。今のままでは、ただの男性と女性の対比と、庇護と独立というテーマでしかなくて、現代的ではないなという印象を抱いた。

 一つは、リアリティのレベルに問題があること。メタヒューマン的な能力が発揮される瞬間があるのだけれど、ハーレクインもブラックマスクも現実的なヴィランだから、悪い意味でシーンが浮いてしまっていた。もちろん、DCEUを追っている人ならば、それぐらいのリアリティレベルであることはわかっているのだけれど、この作品単体で言ったら、行き過ぎていたと感じた。また、そうでなくとも、現実的で無機質な暴力がある一方で、ポップなふざけたような暴力もあって、レベルというかベクトルが統一されていないように思える。

 一つは、まとまりが弱いこと。アクションも良く出来ているけれど、音楽が強くかかっていて、PV風なのか、良く出来たアクションを見せたいのか、中途半端になっている気がしたし、話もハーレクインの狂気じみた行動がある割には、「スナッチ」的な時系列操作+群集劇で軽く観るという感じでもない。そのせいで、許容量を少し超えるぐらいにナレーションが入ってしまったし、それで没入感が阻害されているというのもあると思う。僕にはよくわからないのだが、これが監督の技量不足というものなのかなとなんとなく思った。どういう感情を抱いて欲しいのかが、ヴィジョンが明確化されていないように感じたのだ。

 

 全体としては良く出来ていて、長くもないから、文句もないのに、面白いとも感じられないという奇妙な状態になってしまったので、その理由を考えざるを得なかった。