ドラフトの考察

 ドラフトというメカニズムを僕は好んでいる。一方で、MTGにおけるドラフトの面白さのようなものを、一般的な多くのアナログゲームは再現できておらず、それよりもつまらないものになっているという感想を抱く。ドラフトはシンプルなメカニズムだが、ゲームデザインによって、面白さが変わり、その本領はまだ発揮されていないと思う。その理由をまとめてみようと思った。

 

 まず、一般的なアナログゲームのドラフトから。多くのゲームが1~2周分程度のカードを手元に配り、そこから1枚を抜き出すということをする。まず、この時点でプレイヤーが考えるのは、以下のようなことだ。

・単純に最も強そうなカードを得る

・自分に最も合いそうなカードを得る

・相手に渡るとまずいカードを得る

 一番上は単純で、カードパワーの一番高いものが選択される。もちろん、厳密に言うとその中でもバリエーションがあって、例えば、そのAというカードだけで十分強いカードもあれば、BやCがなければあまり強くないカードもある。BやCを持っていなければ、それを取れるかは運になってしまうのだ。だから、リスクとリターンがそれぞれのカードにあって、そこから何かを選ぶようになるはず。確かにその選択はあるのだけれど、基本的には強いと思うカードを取るだけなので、面白さに乏しい。

 次は、自分の戦略や常にピックしたカードとの兼ね合いを第一に考えるというものだ。一番上と一致していればわかりやすいのだが、今選んでいるカードとは相性が悪いのだが、強いカードなどが出てきた場合に、二者択一を迫られることになる。

 最後がいわゆるカットで、これはあまり面白い経験とならない。そのカードが自分でも使えるのなら問題ないが、そうでないなら、手番を一つ無駄にして、できるのは誰か他の一人の弱体化だけであるのだから、割に合わない。この体験をさせないために、なるべくことができないようにするか、カットをフリーアクションで行えるようにするなど、工夫が必要であるように思える。

 こう考えると、実際にはあまり選択肢がない。だから、まあ、あって2択というところで、むしろどれも欲しくないなんてことすらあるぐらいだ。それでは、意味のある選択を感じられない。面白さを感じられない。僕がアナログゲームのドラフトに抱く違和感は、これが原因だろう。

 

 次に、MTGのドラフトを考える。もちろん、前述した要素も含むのだが、追加で以下のような要素が加わる。

・住み分けができるようにカードを得る

 僕はこれが一番大きな点であるように思える。説明すると、MTGはカードに5つの属性である色という概念があって、一般的なドラフトではそのうちに2色をベースにデッキを組まなくてはならない。他の色のカードはどんなに強くても使いにくくなるのだ。すると、どういうことが起きるのか。

 カードパックから出てくるカードは、ランダムで封入されている。だから、同じ色を選ぶ人が多くなると、その色のカードは競争率が高くなってしまい、結果として弱いカードばかりを集めることになってしまうのだ。結果として、僕が青と赤で行くから、隣の人は緑と白を取ってね、みたいなことをしなければならないのだ。ある意味で半協力ゲームをやっているようなものになる。席が遠い人とは色が被っても影響が少ない(強力なカードはどちらにせよ取られてしまうので)が、近い人とかぶるとかなり致命的だ。この技術こそ、MTGドラフトの一つの目玉となっている。例えば、以下のような状況を考える。カードの強さ順に、以下のように並ぶパックを開けたとする。

・相当強い青のカード

・かなり強い青のカード

・それなりの赤のカード

・まあまあの青のカード

・その他……

 以上のような状況で、一番上の青のカードを選んでしまうのは、よくない選択となる可能性があるのだ。なぜかといえば、プレイヤーは流れてくるカードで相手の選んだ色を推測するため、『かなり強い青のカード』が流れてきた時点で、青以外を選んだに違いないと思ってしまう可能性がある。そうして、次の順の人が青を選んでしまうと、次のパックのドラフトの際に、逆順になった時、二人で青を取り合い、いいカードが取れない時がある。それを考えると、『それなりの赤のカード』を取る、という戦略が意味を成してくるし、実際に強いプレイヤーはそれをよくやっているようだ。

 これはかなり意味のある、面白い選択だと思う。色かぶりをしてでも欲しいカードというものあるわけだし、次の人がどの色を基軸にするのかはまだわからないことでもある。けれど、この、流すカードを制御することで、他の人のデッキ構成を制御し、逆順にカードが回った時、有利なカードを得られるという戦略がとれるという点は、かなり面白いインタラクションであると思う。単に、今のプールの中から、最強の1枚を選ぶだけのゲームではなくなるのだから。

 

 僕はこれがアナログのドラフトゲームに足りない要素の1つだと思ってきた。色のような強力な縛りがなく、何となく、Aという戦略に向いたカード、Bという戦略に向いたカードというだけでは、このような高度な駆け引きは非常に生まれにくいからだ。「テラフォーミングマーズ」や「世界の7不思議」、「ヴォーパルス」などはそこを失敗していると思う。しかし、この間出た「カーニバル・モンスターズ」という、それこそMTGのデザイナーであるリチャード・ガーフィールドがデザインしたドラフトゲームには、この色の概念が使用されているようだ。もちろん、マーケティング的な理由があるのかもしれないが、僕はガーフィールドがこの面白さに、色の縛りという重要さに気付いていて、デザインしたのではないかとひそかに思っている。「カーニバル・モンスターズ」、目新しさはないのだけれど、答え合わせの意味も含めて、やってみたいなぁ。