「1917」の感想
「1917」を観てきたので、ネタバレありの感想。正直、アカデミーが戦争ものに飽き飽きしてきたとか、「パラサイト」が非ハリウッドの映画であるとか、そういう政治抜きに(その政治こそがアカデミー賞なので、政治抜きとは片腹痛いのだが)選んだら、作品賞はこれになっていたと思うほどの出来なので、観に行く価値がある。実際に、前評判では確定的だと言われていたぐらいだったしね。
まず、映像がとても綺麗だった。僕はロジャー・ディーキンスがかなり好きで、最近の彼は僕が好きなターナーの絵を目指しているらしいので、余計に感性に響く。メイキングを見ると、疑似ワンカットであるため、照明が使えなかったりして、照明弾に照らされるシーンなんかは本当にそれだけの明かりで撮っているらしいのだが、それを考慮しなくても素晴らしいと思える映像ばかりで、本当に感心してしまった。ワンカットということもあり、気が抜けないから、スクリーンから目をそらすことができない。それも相まって、素晴らしい体験だった。
次に、ストーリーがシンプルながらに良かった。いわゆるミッションものであって、少人数で戦争の中、任務を達成したいという形式。まあ、戦争ものはほぼ確実にこの方式でなければエンターテイメント的に面白いものは撮れないので、無難に外さない。構造は単純なのだが、ストーリーのゴール(それが達成しないと、問題がある目的)と、パーソナルのゴール(主人公が関心を持つ目的)が上手くかみ合っていて、その達成条件をずらしたりしているので、緊張が途切れることがない。時間経過も上手くごまかされていて、ワンカットでありながらも、長時間の任務(本当に矛盾している)を描くことが可能になっている。素直に上手いと思った。
僕が特に感心したのは、クライマックスの展開だ。主人公は、目的とする大隊にたどり着くことができ、疲れもあって放心状態に陥る。しかし、そこでは目的が達成できず、時間制限も迫っていることがわかる。そして、彼は走り出す。オープニングと同じ、塹壕の中を。だが、オープニングで示していた通り、塹壕は駆け抜けることができない。そこで彼は、オープニングで相棒をなじったような、塹壕の外に出るという行動を選び、戦場を走り抜けるのだ。このシーンはかなり気合が入っていて、予告などでも何回も観たシーンなのだが、オープニングとの対比が素晴らしく、完成度に目が潤んでしまった。「スパイダーマン:スパイダーバース」でもそうだったのだが、予告で何度もみせているような制作陣にとっても自信のある素晴らしいシーンが、物語的にも最も盛り上がるシーンだったりすると、完成度に涙してしまうのだ。そして、戦争ものらしい、任務はクリアできたが、戦争は終わらないという虚しさが残るシーンの後、物語はパーソナルゴールがどうなるのかという焦点へと移っていく。そして、エンディング。このエンディングもまた、オープニングと対になっていて、本当に素晴らしい。僕は途中の光景から、そう終わることがわかった時に、思わず落涙してしまった。作品とはこうあるべきだ。素晴らしい。この作品のように、どのタイミングで終わったらいいのか難しい作品は、始まりに戻ればいいのだと思った。
いろいろと学ぶことも多く、映画史に残るような素晴らしい映像が観られた作品だった。今のところ、今年で一番好きな映画だ。まあ、今年は「TENET」が待っているわけだけれど。