「パラサイト 半地下の家族」の感想

 観てきました。アカデミー賞発表の次の日だったので、案の定の満席でしたが……

 ほんのりネタバレあり。気を付けて。

 

 複雑性が大事だと思った。たとえば、ミッドポイントの宴会をしている時、絶対にこのままであることはなくて、でも、簡単に考えればホストの家族が帰ってくるんだけれど……というタイミングで元家政婦が来る。さらに、重要な要素が明らかになって、と複雑になっていくのだ。だから、皆、そこに引き込まれて、それを知りたくて、一気に集中する。で、そこで本命が発生するので、作中の人物と同じように、てんわやんわしてしまう。これが上手い。やっぱり、話は基本的に想像できないように構築すべきであって、期待通りの展開を持ってくるにしても、一度は外す。これが大事だと思った。

 ただ、期待には応える必要がある。前述のホストが帰ってくるというシークエンスもそうだし、前半のどんどん寄生が進んでいくシーンもそうだ。ただ、この前半はかなりテンポがいい。これがとても大事だ。予告やタイトルで分かることを長々とやっても仕方がない。満足感が得られるレベルで、最速で終わらせるべきだ。

 テーマとして、まあ、格差が問題となっているのは、どの国でも同じだなぁ。まあ、「ファイトクラブ」を観るまでもなく、これがひどくなっていくのは問題だ。要は、階層が固定化されてしまったが最後で、それを覆す手段が革命しかなくなってしまうんだよね。それはフランス革命のような大々的なものでなくても、無差別殺人とかそういう形で起こってしまう。それはどの階級にも被害があることなのだ。金があるほど、金が稼ぎやすいのだから、格差は広がっていく一方だ。それは昔からそうだったのだけれど、平等主義でなかったとか、ローカルであったとか、疫病や戦争といったリセットがたびたび起こっていたから、そこまで問題にはならなかった。この世界が安定してしまったがゆえに、格差が広がってしまう。

 あと、臭いというどうしようもなくて、目には見えないものが無意識の差別を生み、悲劇につながってしまうのが象徴的だった。これは階層と同じように、しみついてしまうものであって、しかし、本人が悪いわけでもなく、本人は慣れてしまうから、自分で気付けない。

 悲しいのは、これ、最初の段階で別に誰も不幸ではないことなんだよな。電波が入る入らないとか、飯が貧相とか、空気がひどいとか、いろいろと問題があって、空というか未来も見上げることができない場所なんだけれど、でも、みんな、なんだかんだで楽しんでいるように見えた。けれど、どんどん欲を出してしまって、同じような階層の人をけり落してまで、自分たちだけが恩恵に預かろうとすると、問題が発生してしまう。もちろん、階層なんか、格差なんかがないのが、誰にとっても、一番いいのは確かで。――上流層にとっても、殺されるよりは一定水準の生活をつつましく生きる方がいいだろう――ただ、その次に求められるのは、その低い水準でも、生きることへの楽しさを感じることなのだなと思った。差別というのは、する側が可哀そうでもあるのだ。一度、差別をしてしまえば、その立場、上の立場を維持し続けるしかなくなるのだから。それで体や精神、環境に問題が発生しようと、維持し続けようと無理をしてしまい、死んでしまうこともある。上流層側だって、たぶん、下流層全員を寄生させても、生活は普通になりたってしまうのだよね。問題はなかったはずだった。神の視点を持つものがいれば。

 だから、まあ、みんな好き勝手をして、その副産物でぎりぎり社会が回るぐらいが皆にとってのベストだよなぁと僕は思うんですけれど、どうでしょうかね。