聞き取り

 昔から、人の話を訊くのは苦手だし、声を声と認識するのも苦手だし、あまり人と関わりたくない人間ではあったのだけれど、どうしてか人の言わんとしていることを理解するのは得意だった。

 良くいるじゃないですか、なぜか説明の要領が悪い人。なにを言っているのか、訊いている人は全くわからなくて、首をかしげてしまうような。でも、僕は割となんと言っているのか、それを掴むことが出来てしまう。だから、AとBが話している時、横で訊いているだけなのに、ああ、Aはあのことを話したいのに、Bはきっとあのことと勘違いしているんだろうな、ということがわかる。あまりにも進展がない場合は、口を挟んで、実質的な翻訳のようなことをする羽目になることも多い。きっと、雑多な情報から本質的なものを受け取るのが得意なのだ。この能力は、テストが得意なのと関係していると思う。テストの問題を見ても、出題者が何を問いたいのかがわかるのだ。だから、そこから逆算して、テスト勉強をしたり、本番でも答えを推測することができる。この能力は僕を長らく生かしてきたが、もしかしたら、そのせいで、なんとか日常を送り、テストでいい点数が取れてしまうせいで、まだ僕は社会に絡め取られたままなのかもしれないな。

 この能力は、普通に生きていく上で色々と役に立つのだけれど、逆に仕事に対して虚無感を抱えてしまって、やる気がなくなるなんかの弊害を生んでいる気もする。きっと、多くの能力がそうなのだろう。ゲームのように、何かの時に便利なだけというスキルはなくて、メリットとデメリットがセットになった能力を皆、生まれた時に押しつけられているのだ。その性質にあった生き方が出来ればいいのだろうな、と思う。