物語の複雑性

 「十三機兵防衛圏」をクリアした。このゲームはネタバレ抜きでこそ、本当に楽しめるタイプのゲームだと思うので、感想は書かないが、これをプレイしていて、今まで考えていた持論を思い出したので、それを書こうと思った。それは、物語は複雑であればあるほど良いというものだ。

 もちろん、作者の設定お披露目会になっていたり、ついてこられる読者だけのためのものになっていたり、わかりやすくする努力を放棄していたりするのは論外だ。そうではなくて、物語自体は出来るだけ複雑にして、その上で、出来るだけわかりやすく伝えれば、伝わりきると思っている。そして、物語は本来的に複雑な方が面白いと思っている。

 物語が複雑すぎてわからないと思ったことがあるだろうか。もちろん、作者がそれをわからせる気がないような駄作は除いて、である。ほとんどないのではないか。少なくとも、僕はない。そして、物語が単純なのと、複雑なのを比較して欲しい。多くの場合、傑作は傑作と呼ばれるだけのことはある複雑さがあるのではないか。

 物語の展開には驚きが必要である。読んだ傍から全てを理解できるような作品には、触れる意味なんてない。何かしらの展開が含まれているべきだ。そうなると、基本的には複雑にするしかない。ただ、予想出来ないというところだけに注力した作品は、論理的ではなくなり、シュールなギャグのようになってしまう。超展開ばかりになってしまえば、物語を真剣に受け取る必要がなくなってしまうのだ。なんでも起こりえるのだから。しかし、論理に従っていれば、基本的には予想がしやすくなってしまう。

 つまり、物語という形を崩すことなく、物語に意外性を持たせるためには、複雑にするしかないのだ。どうやって、その複雑さを隠蔽するのかとか、あるいはシンプルなのに複雑にみせて、予想を困難にさせるのかとか、そういう技術はあるにせよ。人間は情報を処理する生き物で、それに喜びを見出すのだから、その情報密度を上げるべきだ。

 多くの、ほとんど記憶に残らず消化されていく作品たちは、思うに単純過ぎるのだ。タイトルや予告だけで想像できる作品が多くあるだろう。何かの要素と何かの要素を掛け合わせただけだとわかるような。それは実際に触れても、なんら驚きを見出せないものになるはずだ。ただテーマや人物が好きという理由だけで読まれるものだろう。そうやって、量産される物語は凡作にしかなり得ない。複雑な作品は創るのが難しいし、それを複雑でないようにみせつつ、受け手に渡すのはもっと難しい。しかし、それが作品としての質を上げるのであれば、多くの作者はそれに挑戦すべきだと僕は思う。