創作を好む理由に関して

 僕に限って言えば、それは現実があまりにも退屈だからの一言に限ると思う。

 我々の脳は長い時間をかけて進化してきた。それは科学技術が全くない時代に、少しでも長く生き、多くの子孫を残すために洗練されいく。好奇心を持ち、問題を解決し、他人と交流し、安定を是としてきた。片や現代。急速に発展していくテクノロジーやそれを後追いしていく社会形態に、人間の進化は置いて行かれている。古代に利点があった特徴が現代では大きな欠点と化してしまった。そんな錯誤を抱えたまま、人々は生きている。

 現代社会はあまりにも簡単なのだ。生きながらえることは容易で、本当に重要な問題は滅多に発生しない。多くの秘密は暴かれるか、証明が難しいかのどちらかだ。個人にできることはあまりにも広く、しかし、何かを変えたりはしない。そんな中、面白いと感じられるだけのものは少ない。僕たちの脳が進化の過程で獲得した面白がる性質を、もてあましてしまっている。だから、わざわざゲームをやって、困難に立ち向かう。わざわざ小説を読んで、スリルを味わう。だからと言って、今更原始の生活に戻ることは出来ない。それもまた、我々の脳が不快感を示し、後悔するだろうから。そう、できてしまっているから。

 僕たちが変えられるものはあまりにも少ない。遅々として進まない脳の進化に文句を言いながら、それに寄り添うことをしない社会に苦情を呟きながら、僕たちを置いて急進していく科学に呆然としながら、生きていくしかない。ただ一つ出来ることがあるならば、それはそんなくだらない現実から目を背け、少しでも面白いものを創り、消化していくことだけだ。その絶対的に虚無な行動にだけ、根底的にずれてしまった僕たちが楽しめる世界が広がっている。