「カヴェルナ拡張 忘れられた部族」の感想

 「カヴェルナ」はセットアップにランダム性が乏しい。こういったゲームは序盤のバリエーションが固定されるという欠点がある。そのため、この拡張では、各プレイヤーが特殊能力を持ってゲームを始める。それぞれがメリットとデメリットを併せ持つ形の特殊能力だ。

 ボードゲームにおいて、プレイヤーごとに特殊能力を持たせるというデザインはよくある。俗にVPP(Variable Player Powers)と呼ばれることが多い。

 これにはいくつもの利点とある程度の欠点がある。まず、利点だが、ゲームのバリエーションを増やすことができる。これはリプレイ性やリプレイ欲を上げるのに役立つ。最適解の解析が難しくもなる。また、特徴づけがあることで、初心者でも、自分が何をすればいいのかがわかりやすいという特徴がある。例えば、釣りと虫取りという要素があるゲームで、自分のキャラクターが釣り名人だとしたら、まずは釣りをすべきだと、初心者は考えるだろう。それが正解かどうかはゲームによるが、プレイの指標があるというのは大きい。欠点としては、プレイヤーの選択を狭める側面がある。これは利点と裏表だ。最大の点はバランス調整で、ぶっ壊れが見つかりやすく、エラッタが容易ではないボードゲームにおいては一定の欠点となっている。

 このVPPだが、大きく分けて2つの実装の仕方があると僕は考えている。1つは、ちょっとしたボーナスを与える形だ。何かのコストが少し軽くなったり、得られるものが多くなったりする。緩やかな傾向付けだ。もう1つは、根底から大きく変えてしまう方法だ。「マルコポーロの旅路」(残念ながら未プレイ)や「ROOT」などは極端な例でゲームに対する姿勢を大きく変えてしまう。「ROOT」ぐらい極端だと、VPPというよりは、非対称ゲームと言われることもある。「カヴェルナ拡張 忘れられた部族」はそれほどでもないにしても、能力の幅は大きい方だ。

 このゲームにおいては、プレイヤーはそれぞれボードを持つ。そのボードは左右で大きく地上と地下に分かれており、そこにタイルを置き、建物や牧場を立てるのだが、この拡張では種族によって、その半分をほとんど無視できるような能力を持っていたりする。ゲームの根幹が揺るがされるわけだ。これにより、「カヴェルナ」におけるセットアップの貧弱さを補っている。僕は外連味のあるゲームが好きだから、この拡張は本当に素晴らしいと感じた。

 もちろん、欠点もある。ワーカープレイスメントは、プレイヤーごとがアクションの早取り(ドラフトと言ってもいいかもしれない)を楽しむゲームなので、方向があまりに分散してしまうとその妙を楽しむことができない。しかし、このゲームは根幹が良く出来ており、鍵となるアクションは、どのような方向に進めど多かれ少なかれ踏まなければいけないので、そこで競合が発生する。それで十分に楽しい。

 バランスの問題や、煩雑さが増すという欠点はあるものの、基本的には導入すればするだけ楽しくなる拡張だと思った。こういう拡張は良い拡張だと個人的に思う。