まるで、はじめからいなかったように

 この間、実家に少し帰ったのだけれど、その時、妻に「妹さんは今日、いないんだ」と言われて、僕に妹が存在することを思い出した。そう言えば、弟が下宿していた時には、弟の存在をナチュラルに忘れて、四人家族だと錯覚していた時期があった。そうだ、僕は人間を覚えることが致命的に苦手で、忘却速度がマッハなのだった。

 一ヶ月あれば、割と仲の良かったクラスメートぐらいは本気で忘れてしまう。自分のクラスに入っても、そこが別のクラスだと思って慌ててしまうぐらいにはひどい。向こうから話しかけてきた人の顔がわからないことばかりだし、それで問題を起こしてしまうことも多々あった。わざとわからない振りをしていると思われて、かなり険悪になってしまったり、人違いだったのに、関係があるとしばらく思い込んでしまったりした。なにせ、家族の存在すら、本気で忘れてしまうのだ。ある程度、定期的に会っていたり、メッセージのやり取りをしていれば、そのたびに更新がかかり、忘れにくくなるのだが、たとえ、家族のような人でも全く触れなければ忘れてしまう。道理で古い知り合いが全くいないわけだ。毎日顔を合わせる人と、定期的に連絡を取っている人の二択しかない。

 そのせいかもしれないが、夢にも実在の人物が出てくることは少ない。しかも、出てきたとしても、僕は勝手に人々をカテゴライズしていて、同じカテゴリーの人たちが統合された同一人物という設定で出てきたりする。最初Aだった人が、夢の中で次第にBになるのだが、同じ人として扱われているという感じだ。ユニークな人間としてカテゴライズされる人は非常に少なくて、例えば、40人のクラスの中には、2人(だからと言って、別に仲は良くない)ぐらいしかいなかった。あとは類型パターンの誤差内に思えてしまって、記憶とか名前とかが混ざってしまっている。だから、寂しさみたいなものを根本的に感じないようで、その点で妻の感受性の高さにはよく感心させられている。彼女は逆に何かと付けて思い出すようで、そのたびに、ああ、そんなこともあったね、なんて答えるばかりだ。なんか、存在を忘れてしまうので、疎遠になったという感覚すらないのだよね。周囲から教えられて思い出す。そして、すぐ忘れる。

 なんで、みんなカテゴリー的なんだろうか。なんか見た目と性格、ある程度似たものがあるように僕は思えていて、スキルセットも同じというか、こういうタイプはこういう能力持ってて、こういう性格で、こういう見た目なんだよね、みたいなものがある。少なくともあると思ってしまっているので、僕の記憶のアバウトさが爆発して、脳内が大惨事になってしまうのだ。

 どうにかならないものかな。まずは他人に興味を向けることから始めなければ。