人の意志を重要視しすぎ

 なにか大きな事件があると、その犯人の意志に全ての責任があると思っている人間がいて、驚く。それは想像力、思考力、共感、知識の欠如がなければ、導き出せない答えだ。それなのに、それが一般的らしい。案外、なにも興味のない人が多いんだね。子供とか家族とか大事な人を守りたいと思っている癖に、なにも考えてないし、知らないんだから、皮肉だなぁ。

 まず、そういう拡大自殺みたいなことをした人に対して、そんなに死にたいなら一人で死ねばいいみたいに言っている人は、一番頭が悪いと思う。それができないから、そう考えられないから、こういう事件を起こしたのでしょう? もちろん、多くの人はそんなことをしないで、一人で死んでいる。本当に多くの人間がね。でも、実際、死ぬ側の人間のことを思えば、その事件を起こさない理由だってないじゃないか。そうしたくないと思えるほど、この世の中が素敵な場所に思えているなら、こんな事件を起こさないわけだし。それに、もし、何の不満も抱いていなくても、突然、凶行に及ぶことがある。これはアメリカの研究なんかでわかっていることなんだけれど、唐突に重大事件を起こして、死体解剖を行った結果、犯人の脳に大きな腫瘍が出来ていることがあるのだ。こうなってしまえば、物理的に、犯人は自制を効かすことが出来ない。これに対して、意識に訴えるようなことを言っても、無駄だということがわかる。

 そもそも、事件の発生というのは、あらゆる要素が絡まって起こることだ。そして、事件を起こすような要因を持っている人間というのは、確率的に生まれてしまう。それはどうしようもないことで、もし、それが嫌ならば、その確率を下げるようにすることぐらいしか出来ない。どうして、そんな簡単なこともわからないのだろう。

 公正世界仮説のような、因果がはっきりしていて、人の意志によって成り立っているような世界を信じている人間が多すぎる。この世界は、アトランダムと物理法則に支配された、物理的で理不尽な世界なんだ。人間の意志なんて、誤差程度にしか物事を変容させない。