怖れ

 僕はなにかを怖れている。

 もちろん、死に対しては常に恐怖しているのだけれど、それ以外のなにかを怖れていて、上手く行動することができなくなっている。

 死以外に怖れるべきものはないのに。なにをしたって自由で、どうなってもいいのに。どうせ死ぬのだから。

 僕は取り返しの付かなくなることを怖れている? 僕は後悔することを怖れている? 僕はこの生活水準が下がってしまうことを怖れている? 僕はやるべきことをやる前に死んでしまうことを怖れている? 僕はすでに築き上げた関係が壊れてしまうのを怖れている?

 きっと、そのどれもが正しく、どれもが間違っているのだろう。きっと、僕は、今まで僕を構成したものを傷付けることを怖れているんだ。それはもう、老廃物のようなもので。必要ではなくなったのに、まるで愛着のあったぬいぐるみのように、大事にしてしまっている。

 それを捨てるべき時が来る。そうわかっているはずなのになぁ……