「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」の感想

 ネタバレ有り。まだ観ていない人は、今すぐ映画館に急ごう。過去作品はDisney Delux か Plus に入れば全部観られるし、「マンダロリアン」も付いてくるので、実質、SFオタクの必修となっているぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まず、レイ・パルパティーンという設定の優秀さに関して。僕がEP8で評価している数少ないことの一つは、主人公から特別な背景を取り去ったことだ。しかし、EP9は実質的に、EP1~8をまとめる最終作なわけで、そんな背景なしに、まとめることができるのか? という問題があった。そもそも、一般人の子という設定は確かに現代の物語らしいのだけれど、スター・ウォーズにふさわしいかと言えば、疑問が残る。スター・ウォーズはその発想から神話であり(「千の貌を持つ英雄」)、神話と言えば、血筋であることは間違いない。最終作を血筋抜きで語っていいのか? という問題がある。そこで、EP9では、レイをバルバティーンの孫とした。これは非常に優秀な設定である。スカイウォーカー家の対に出来るような血筋はパルパティーンしか存在しないし、スノークとかいう出オチが死んだ以上、ちゃんと最終作にふさわしいヴィランを探すしかない。そこで、パルパティーンを出すというのは、素晴らしい判断だろう。そもそも、EP1~6の黒幕は全編においてバルバティーンなわけで、EP7~9の黒幕も彼にすれば、バラバラになったEP1~9をつなぐことが出来るのだ。さらに、スカイウォーカー家という光の血筋に対し、パルパティーンという闇の血筋に主人公が連なるとしたことによって、血筋というテーマがくっきりと浮かび上がってくる。結局、EP1~9はライトサイド・ダークサイド、ジェダイ・シスと形を変えながら、二つの血筋が戦い合った系譜なのだ。これはシリーズをまとめるにふさわしい設定だ。

 次に拡大されたフォースの力。これは賛否あるようだが、EP8がああなった以上はこうするしかなかったように思える。そもそも、レイアとルークがあれだけのことをしてみせたのだ。本当に力を取り戻したパルパティーンはこれぐらい出来ないと、バランスが取れなくなってしまう。それぐらい、不可逆な影響をEP8は与えてしまったのだ。それに、今回本当に新しかったのは、治癒のフォースぐらいなもので、場面が重なり合いながら戦うシーンは、EP8のテレパシーとルークの幻想投影の発展と考えられるし、パルパティーンの強大なフォースライトニングはそのまま、規模がでかくなっただけだ。そもそも、EP6のパルパティーンなんか弱すぎるし、EP3ではメイスに負けかけているしで、あまり強力なヴィランというわけでもなかった。これぐらいはしておかないと、最終作にふさわしくならない。どうせ、次作はないわけだし。それに、治癒のフォースはライトサイドの象徴として描かれているように思える。ダークサイドの象徴と言えば、フォースライトニングなのだが(EP3やEP9を観れば明らか)、ライトサイドの象徴は今までなく、下位互換という感じだった。そこに、治癒が当てはまったように見えるし、それは魔法のように全てを治すというよりは、自然治癒力の強化というように演出されている。レイとベンの最後のやり取りも、自己犠牲と復活という聖書文化のアレなわけで。僕は西洋はキリスト教モチーフばかりで芸がないし、多様性もないな、と否定的なわけだが、批評家の皆さんは大好きじゃないですか。

 最後にレガシーの活用。もう、この後に正史のスター・ウォーズは創られないことになっている(少なくとも今は)。となれば、今までのものを活用しきるしかないだろう。ここぞとばかりにレガシーを使っている。一応、言っておくと、レガシーを使うことに否定的な人間がいるが、それを否定するということは、シリーズが取れないということだ。世界観的な連なりだけでは、スピンオフと変わらないわけで。正史にふさわしくするなら、それにふさわしいものを登場させなければならない。それに、「ジュラシック・ワールド」のように、レガシーを使うことによって、かろうじて観られるシーンになっているというレベルではない。普通に面白いシーンがより、深くなるように使っているし、むしろ、レガシーと使う方が脚本としては難しくなることもある。そういう制約の下に、いろいろな課題をクリアしているわけで。酷使したというよりは、再登場させてくれてありがとうという方が正しい。EP8を観れば明らかなように、新キャラクターや新ギミックを登場させた方が、映画を創るのは簡単なのだ。

 テーマは血筋であり、しかし、物理的な血筋は否定するというジンテーゼに至っていて、とても上手くまとまっている。恐怖との戦いが、ダークサイドとの戦いなのだというテーマもしっかりしている。モチーフも上手く活用されているし。偶然か必然かわからないが、BB-8が二つの太陽がモチーフになっていると気付いた時には、とても素晴らしい仕事のように思えた。それが、スター・ウォーズの象徴の一つなのだから。

 全てを賛美出来るような作品であることは間違いないのだが、EP8でめちゃくちゃになったスター・ウォーズを、当然のようにまとめることが出来なかったコリン・トレボロウとかいう無能から取り上げて一年でこのクオリティに仕上げるのは、想像を絶する困難であったことは間違いないだろう。素直にJ・J・エイブラムスには感謝したい。ありがとう。そして、ダークサイドに落ちたライアン・ジョンソンは素直に謝罪すべきだし、ルーカスからスター・ウォーズを取り上げた挙げ句に、各監督に丸投げしてシリーズをめちゃくちゃにした、全ての黒幕であるキャスリーン・ケネディを中心としたプロデューサー陣は地獄すら生ぬるい目に会え。現場からは以上です。