「私の百合はお仕事です!」に関して

 ここ最近読んだ百合作品の中では、「やがて君になる」を別格として除けば、「私の百合はお仕事です!」が一番好きだ。どんな所が好きなのか、まとめてみたいと思う。

 

 まずは、基本的な設定。この作品は、マリみてみたいな百合小説をテーマとしたコンセプトカフェを舞台にしている。これが良く出来た設定で。よくある女子校百合みたいなテンプレを、リアルではこうはならないでしょというツッコミ込みで楽しむことができるし、文字通りそう言う設定なので無駄な疑義を挟まなくてよい。

 その基本設定のために、二重性をとても楽しむことが出来る。表の舞台ではこうなっているけれど、その本心は? というテーマが設定に内包されている。実質、キャラが倍いるようなものなので、関係性も倍(厳密に言うともっと)増える。今はまだ、そこまでの複雑性はないが、やろうと思えばいくらでもできるだろう。この二重舞台、劇中劇という設定はかなり現代的で、その意味でも先端作品の一つと言える。簡単に、わかりやすく、複雑性を増すことができるから、創作に向いている設定なのだ。

 また、これはオマケのようなものなのだが、表、つまりカフェの舞台では、百合らしい言動があると、客が盛り上がっている様子が邪魔にならない程度に書かれている。個人的にはこれが結構好きで。つまり、他の作品とかでも、明らかに百合っぽい言動とかがあるじゃないですか。背景に花が舞っていて、キャラが大きく書かれていて、表情がアップに写っていたり。それってある意味、シュールな光景で、キマシタワーと盛り上がる感覚と共に、そのおかしさを感じていると思うんですよね。でも、この作品では、それがコンセプトなカフェで、仕事であるという側面がある。だから、その不自然さがモブの盛り上がりで緩和されると僕は思っているんです。ああ、これでいいんだな、だって故意的にそういう状況になっているのだから、と。これは「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」でも思ったのだけれど、あれも舞台だから、あんなに『決まった』台詞や動作になるという説明がついた。僕はそういうものに心地よさを感じるのだと思う。

 何処までが演技であって、何処までが本音であって、どうやってそれを読み取るべきなのか、というものがテーマになっていると個人的には解釈しているのだけれど、それも根源的で面白いテーマだと思う。まあ、僕は鈍感ゆえ、そういった境界戦を感じ取れないタイプの人間ではあるのだけれど。

 まあ、あと単純に絵が好み。キャラデザ含め。意外に大事。

 

 こんな感じで、好きな要素が多分に含まれている作品なので、最新巻をいつも楽しみにしている。弱点としては、過去の描写がすぐにそれとわかりにくいので、連続して読んでいると混乱することがあるかもしれない。読み進めれば、どういう時系列かはすぐにわかるのだけれど。

 この表面的な舞台があって、その設定があってという背景は非常に優れているので、今後も似たような要素を持った作品が生まれていくと思う。